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Time is Brain ~脳卒中は時間との闘い~その兆候、見逃さないで

2016年 11月16日 15:37

脳卒中は脳の血管が詰まったり、破れることが原因で、脳の組織が壊れ、さまざまな障害を起こす疾患です。厚生労働省の調べによると、2010年に約29万人が脳卒中を発症し、有病者数は約310万人、要介護者数は約185万人と推計されています。重篤であれば死に至ることもあり、救命できても麻痺や言語障害、寝たきりなど後遺症が残る可能性も少なくない疾患です。

脳卒中とは

脳梗塞、脳出血、くも膜下出血と大きく分けて3つの疾患のことをいい、脳卒中のなかでも、最も発症者が多く約8割を占めるのが脳梗塞です。脳梗塞は脳の血管が動脈硬化を起こして細くなったり、詰まったりすることが原因で起こります。心臓の病気である不整脈が引き金となることもあります。
高齢化とともに最近、増えているのは心臓にできた血栓(血の固まり)が脳動脈に流れ、血管を詰まらせる「心(しん)原性(げんせい)脳梗塞」です。これは脈拍数が速く不規則になり、動悸、めまいなどの症状がでる「心房細動」が原因で、高齢者に多い病気です。
脳出血は脳の細い動脈が破れて、大脳、小脳、脳幹に出血した状態のことで、くも膜下出血は脳の表面を被っているくも膜と脳の間に出血が生じる状態で、脳動脈瘤の破裂が原因とされています。

兆候を見逃さないで!

くも膜下出血の怖さはご存知の方も多いと思いますが、それまで健康だった人でも、突然起こる可能性がある病気です。その激しい頭痛は「ハンマーで殴られるほど」とも表現されますが、今までに経験したことがないほどの痛みが特徴で、手足の麻痺などは起りません。
脳梗塞や脳出血の場合は、片側の手足の脱力・しびれ、ろれつが回らない、言葉が出にくい、物がだぶって見える、視野が欠ける、ふらつく、めまいがする、力はあるのに立てないなどが症状になります。
これらの症状に早く気づき、救急車を呼ぶなどの受診行動が、命を守り、後遺症を回避するとても大切なアクションとなります。脳卒中は時間との闘いなのです。
図のFASTを覚えておきましょう。どれか一つでも当てはまったら、すぐに医療機関を受診しましょう。

予防策は

高血圧、糖尿病、肥満といった生活習慣病、そして喫煙が脳卒中を起こす原因に挙げられます。どれも動脈硬化を促進する危険因子です。発症しやすい年齢は50歳代、60歳代、70歳代と年齢が上がるごとに増えますので、生活習慣病のある方は血圧・血糖管理、禁煙などに十分に気を付けてください。

4.5時間がキーワード

当院では、脳卒中疑いの患者さんに頭部のCTやMRIの撮影、胸部のX線撮影、血液検査などを迅速に行い、診断、治療を開始します。脳梗塞が起こると、数分後から脳細胞の壊死が始まり、時間の経過とともに脳にダメージが広がり、後遺症の残る確率が高まります。1分1秒を大事に、スタッフがチーム力を結集します。
急性期の脳梗塞は、薬による治療が中心で、なかでも、点滴投与することで血管の詰まりを再開させる血栓溶解薬アルテプラーゼ(t-PA)が、日本や米国の脳卒中治療ガイドラインで最も推奨される治療とされています。
このt-PAは、どこの医療機関でも行えるわけではなく、脳卒中専門医を有し、24時間体制で受け入れ可能な病院に準備されており、当院は治療可能な施設となっています。
ただ、この治療は症状が現れてから「4.5時間以内に投与」という時間制限のほかにも、さまざまな基準項目に沿う必要があり、だれでもが適応になるわけではありません。
t-PA適応外もしくはt-PAを使用しても、血流が再開通しない場合には、カテーテルを脳の血管の詰まったところまで挿入して、血栓を絡めて取り除く「血栓回収療法」を行います。

脳梗塞の最新治療「血栓回収療法」

 この外科的治療はとくに、太い血管が詰まる「脳主幹動脈閉塞症」に対して行います。これまで、脳主幹動脈閉塞症は治療しても回復が難しい疾患でしたが、2015年1月以降、「血栓回収療法」による有効性が多数発表され、現在では重症脳梗塞に欠かせない治療法となっています。
 この治療法で70~80%の血管が開通しますが、頭蓋内血管に血栓回収デバイス(道具)を到達させるという熟練した技術が必要になります。当院は脳血管内治療の指導医である山口慎也・脳神経外科担当部長を中心に、脳外科・脳内科医師8名が協力してこの治療にあたり、良好な治療成績をおさめています。
 地域から脳卒中で苦しむ人をなくしたい、救いたい。その思い一つに、脳卒中・神経センターのスタッフは日々、患者さんと向き合っています。

 

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