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難聴が日常生活に支障を及ぼしていませんか?

2018年 8月24日 15:22

難聴によるコミュニケーション障害で、多くの方は日常的に困難を感じています。とくに人間関係において、その困難さは顕著に現れます。十分に聞き取れないまま返事をして、行き違いが生じたり、会話に参加できず孤立感を感じている方も少なくないのではないでしょうか。
最近では、「難聴と認知症」との関連性も指摘されていて、難聴を予防することで認知症を回避できる可能性も報告されています。

難聴とは

聴力は非常に重要なコミュニケーションツールです。これが障害された状態を難聴といいます。
周りから気づかれず、日常生活への支障もあまり出ない軽度難聴から、ほとんど会話ができない高度難聴、まったく音が聴取できない聾(ろう)まで、難聴にも程度があります。
出生時には1000人あたり1~2名(0.1~0.2%)といわれる難聴者が、40歳で5%、50歳で15%、60歳で32%、70歳で62%と年齢とともに増加傾向にあります。
乳幼児期の難聴は言語獲得に大きな影響を与え、高齢者は孤立、抑うつ、認知機能低下に影響を及ぼすと言われています。

”聞こえ”の仕組み

音は空気の振動として伝わります。耳介によって集音され、外耳道で共鳴し、鼓膜を振動させます。音は増幅されながら耳小骨を通して、蝸牛(かぎゅう)内のリンパに波動を生じさせます。有毛細胞がある基底板に波動が及ぶと、それぞれ相応する周波数の細胞が刺激され、電気信号を生じ、聴神経を介して脳の側頭葉の聴中枢で、音として認識されます。
外耳道から耳小骨までを「伝音系」、有毛細胞によって振動エネルギーが電気信号に変換され脳細胞により情報処理される流れを「感音系」と呼びます。
伝音系の障害で起こる難聴を伝音難聴、感音系の異常で起こる難聴を感音難聴と呼び、問診・鼓膜所見・耳鼻科的診察・聴力検査・画像評価などで判別します。

手術によって対応可能な伝音難聴

伝音難聴は耳垢がつまっていたり、中耳に水が溜まっていたり、耳小骨(音を伝える骨)が硬くなったりする状態で起こります。耳垢(じこう)塞栓(そくせん)(耳の穴の中に耳垢がつまる状態)や中耳炎などに代表され、処置や手術などにより改善が期待できます。
伝音難聴に対する手術で最も多いのは、中耳炎に対する鼓室形成術です。中耳炎の患者さんは、鼓膜に穴(穿孔)があったり、耳小骨がこわれているために、聞こえが悪くなっています。鼓室形成術は、病変組織を取り除いたあと、自分の組織や人工の骨などを用いて、鼓膜から内耳へ音を伝える機能を持つ耳小骨を再建し、鼓膜に開いた穴を防ぎます。

感音難聴は改善が困難

難聴治療はすべてがうまくいくわけではなく、改善困難な難聴も存在します。その代表が加齢による難聴です。
病態としては内耳感覚細胞や神経・脳細胞の変性や消失で、治療によって聴力が改善することは期待できないため、投薬や手術的加療の適応はありません。
急に聴力が低下する突発性難聴や難聴を繰り返すメニエール病などは、投薬で改善することがありますので、急に聞こえが悪くなったら、すぐに耳鼻咽喉科を受診してください。

難聴への対応

「治らないから仕方がない」とあきらめるのは早いです。補聴器を使って、聞こえの残っている能力を十分に生かし、難聴の悩みを解決することができます。
しかし、補聴器は着けるだけでは、すぐに使えるようにはなりません。脳を訓練することによって使える道具になります。
まず大事なことは、ご本人の聴覚障害についての認識や装用意欲です。医師が補聴器の必要性と効果について説明し、カウンセリングと調整を重ねてリハビリテーションを行います。ご家族の参加も欠かせません。認定補聴器技能者とともにチームで取り組むチーム医療が必要です。
補聴器を使用してもうまく聞こえない、重度の難聴などの場合は「人工内耳」という方法もあり、当院では必要があれば大学病院などへ紹介しています。
                     (製鉄記念八幡病院 耳鼻咽喉科部長 梅野好啓)

 

 

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