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40歳になったら「2年に1度の乳がん検診」を。 他のがんにない乳がんの特徴

2018年 10月19日 13:27

全国平均を下回る、福岡県の乳がん検診率

乳がんは日本人女性がかかる「がん」のトップで、罹患率は増加の一途をたどっています。
11人に1人が罹患しているというデータ(2014年)も明らかになっており、最近は乳がんによる死亡率も微増傾向にあります。
一方、欧米では乳がんの死亡率が下がっています。欧米ではマンモグラフィーによる定期乳がん検診が1980年代から導入され、現在では女性の乳がん検診率が平均70%と非常に高く、早期発見が可能になっているからです。
かたや、日本の乳がん検診の平均受診率は約36.2%で、福岡県は平均より低く33.3%という結果となっています。(国立がん研究センターがん情報サービス調べ2016年)

乳がんの特徴は

乳房には母乳をつくる「小葉」という組織と、その母乳を乳頭まで運ぶ「乳管」があります。
乳がんの約90%が乳管がんです。ほかに小葉がん、管状がん、腺様嚢胞がんといったさまざまなタイプのがんがあり、その種類は15ほどに及びます。それぞれのタイプによって、現れる症状・所見や細胞の悪性度にも違いがあります。


 

どのタイプのがんであっても、がん細胞が乳管や小葉内にとどまっている「非浸潤がん」の状態であれば、周囲の血管やリンパ管にがん細胞が接触する危険が極めて低いため、手術を受けることで治癒率は高いとされています。
乳がんは“自分で触って発見できる”唯一のがんとされていますが、残念ながら非浸潤がんの段階では、触ってもなかなか分かりません。
一方、がん細胞が増殖し、乳管や小葉の壁を食い破って外に広がっている状態を「浸潤がん」と呼びます。乳管は目に見えないほど、非常に細い管です。したがって、もともと周囲に浸潤する特徴を有するがんは、少し大きくなっただけでも浸潤がんになり、すでに血管、リンパ節、骨髄などにがん細胞が広がるリスクが生じていることになります。

早期でも、転移している可能性がある

乳がんの細胞は、他のがん腫と比べ、決して悪性度が高いものが多いわけではありません。
「浸潤がん=転移」というわけではなく、乳がんと診断された方のうち、転移を引き起こす方は決して多くはありません。
しかし、目に見えないレベルでがんの浸潤が生じ得る(ミクロの世界で進行する)乳がん細胞は、早期であっても、また全く自覚症状のない小さながんであっても、体の他の部位に転移する可能性があります。これが「乳がんの怖いところ」と考えられています。

マンモグラフィーによる乳がん検診は、早期発見のために非常に有効な手段です。早期発見ができれば、罹患率は増加しても、死亡率を減少させることができるはずです。そして乳がん検診の究極の目標は、上に述べた手術をすれば治る「非浸潤がん」の段階で、乳がんを発見することです。
乳がんでの死亡率は67人に1人というデータがあり、乳がん患者さんのうち、亡くなるのは6人に1人という計算になります。乳がんになっても治るためには、なにより早期発見が大切です。

日本人の乳房の特徴は? 日本人の「乳がん」の特徴は?

大腸がんや胃がんなど、乳がん以外のがんは、高齢になるにつれて罹患率が上がります。しかし、日本人女性の乳がんは40歳代後半から50歳代に発症のピークが訪れ、60歳代以降も下がらないという特徴があります。近年は、閉経後も罹患者が増えています。
したがって、乳がん検診は定期的に受けることが、早期発見のためには重要です。
発症率が急増する40歳代からは「2年に1度」の検診が強く推奨されています。
日本人の乳房は、乳房全体に占める乳腺の割合が高いため、マンモグラフィー検査をすると乳腺全体が白く写る傾向があります。とくに若年者の乳腺は濃度が高く、マンモグラフィー検診だけでは、しこりが見つけにくい場合があります。40歳以下の方で乳がんに関してご心配の方は、マンモグラフィーとエコーを併用して検査されることをお勧めしています。
  

乳がんの治療法は

がん細胞がリンパ節や他の体の部位に「転移している」・「転移していない」で、治療方法は決まります。転移が確認されない場合は、まず「手術」が考えられます。手術前には、がん細胞をできるだけ小さくする抗がん剤治療を行う場合があり、手術後も再発を防ぐための薬物療法(ホルモン治療や抗がん剤治療など)を行います。放射線照射が必要となる場合もあります。乳がんは手術のみで治ったといえるのは非浸潤がんだけです。多くの場合、ミクロの世界で進行する乳がんに対しては、術後の治療が非常に大切になります。

不幸にして転移が見つかった場合は、基本的にホルモン剤や抗がん剤などの薬物療法が第一選択になります。ホルモン剤は、多くの乳がん細胞が女性ホルモンを「えさ」にして増殖することが多いという特徴があるため、がん細胞が吸収できる女性ホルモンを減らす薬として使います。

抗がん剤はがん細胞を直接的に攻撃し、あるいは細胞の増殖を阻害し、がん細胞を死滅させようとする治療です。細胞の特徴や進行度により、術後にも補助療法として行う場合があります。
また、分子標的治療薬で代表的なものに、「ハーセプチン」があります。これは、がん細胞の表面にあり、細胞の増殖を促す指令を出すタンパク「HER2」の働きそのものを狙い撃ちする薬です。
その他、最近話題の免疫チェックポイントに作用する薬は、すでに皮膚がんの一つである悪性黒色腫や肺がん、胃がんの一部で患者さんに投与されていますが、乳がんでも治療法の一つに加わる日が来ると思われます。一番初めにも述べたように、乳がんは多彩です。それぞれの細胞の特徴や進行度など、患者さん一人一人に最適な治療法を選択する必要があります。

まずは乳がん検診を。
「精密検査が必要」と言われたら、ためらわず早めの検査を

乳がんは、早期発見すれば治癒率が高いがんです。しかしその特徴から、早期発見のためには医療機関や自治体が行っている乳がん検診を受けることが重要です。
検診で異常と診断される方は、全体の10%ほどと言われています。さらに精密検査で調べて、実際に乳がんと診断されるケースはその約2%です。異常=乳がんでない場合もあります。
40歳を過ぎたら2年に1度の乳がん検診、忘れずに受けるようにしてください。
また、乳がん検診で異常を指摘されたら、ためらうことなく専門医療機関を受診してください。

 

(製鉄記念八幡病院 副院長・乳腺センター長・消化器病センター長 石川幹真医師に聞きました)

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