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心不全での入院患者数、毎年1万人のペースで増加

2019年 2月28日 15:10

増加する高齢者の心不全

心不全はわかりやすく言うと「心臓のはたらきが完全ではない、心臓が弱った状態」という意味です。年齢を重ねると、いろいろな原因で心臓が弱ります。高齢人口の増加に伴い、心不全を患う方の数も増えました。
また医療の進歩により、心臓の病気になっても命は助かる方が増えたことも、心不全患者さんが増えている理由の一つです。
高齢者の心不全の急増は、インフルエンザなど伝染病の世界的大流行(パンデミック)になぞらえて「心不全パンデミック」と呼ばれるほど、社会問題になっています。私たちはそんな心不全のことを理解し、向き合っていかなければなりません。心臓だけに、「心(こころ)」の準備をすることも必要です。

心不全の症状は

心臓は血液を体に循環させるポンプです。人間の体には暑さ、寒さ、疲れ、食べ物、病気、心配事など、数えきれない負担がいつもかかっていますが、弱った心臓は余力が小さいため、大きな負担には耐えきれません。
その結果、血液の循環が悪くなり、息切れ、動悸、体のむくみなどの症状が生じます。
ひどくなると呼吸困難に陥り、入院が必要になってしまいます。(図・心不全の症状)


心臓の負担を取る治療で症状は軽くなりますが、心臓が弱った状態そのものを治すことは難しいので、再び負担がかかると症状も再発します。
このようなことを繰り返すうちに心臓はさらに弱り、最後には生命に危険が及びます。
(図2)

心不全の原因は

心不全の原因はさまざまで、心臓の血管の動脈硬化で生じる狭心症や心筋梗塞、心臓の弁が開きにくくなったり閉まりが悪くなったりする心臓弁膜症、高血圧や糖尿病などによる心臓肥大、心臓の筋肉が徐々に弱る心筋症、脈が異常になる不整脈などがあります。

心不全にならないためには

私たちはどのように心不全と向き合えばよいのでしょうか。
まず大事なのは、若い時から動脈硬化、高血圧、糖尿病などを予防し、治療して、できるだけ心臓病や心不全にならないようにすることです。
太り過ぎないこと、塩辛いもの、脂っこいものを食べ過ぎないこと、タバコを吸わないこと、治療をきちんと受けることなどに、日ごろから注意して下さい。
すでに心臓に病気のある方は、病気と上手に付き合って、体調が大きく崩れて入院するようなことがないようにしなければなりません。薬や手術などの適切な治療を受け、日常の注意もしっかり行いましょう。
適度な運動も重要です。度を超えた運動はよくありませんが、反対にじっとしてばかりだと筋肉が落ちて、体を動かした時、心臓の負担をかえって増やすことになります。

セルフチェックと周囲のサポートが不可欠

何よりも大切なのは、以上のことに十分注意しながら、体の状態をいつもよく見ておくことです。高齢の方に対してはご家族や周囲の方が、気をつけてあげてください。ドキドキする、息が切れる、足が腫れるなど心不全の症状が悪くなっていないか、体重が増えていないかなど、いつもチェックし、悪くなる兆しがあるときは、早めに医師や医療スタッフに相談してください。

心不全と向き合う

最近は高齢の方だけの世帯が増えて、このような注意が難しい場合もあり、現実の厳しさを感じることが多くなりました。社会全体、地域ぐるみで高齢者を支える取り組みが必要です。
当院でも、患者さんが退院される際に、医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、理学療法士、ソーシャルワーカーなど多くの職員が関わり、退院後も治療がきちんと続けられるようサポートしています。時には退院後にお世話していただく院外の医療、福祉の関係者も交えて話し合うこともあります。
そして、心(こころ)の準備です。どれだけ治療が進歩しても「不老不死」というわけにはいかず、とりわけ心不全は徐々に悪くなることが多い病気です。今後の見通しを頭におきながら、どのように病気と向き合うか、どういうことを大事にされたいのかなどを、ご本人、ご家族が日ごろから考えていただけるよう、お手伝いしたいと思っています。

(製鉄記念八幡病院 循環器・高血圧内科部長 藤島慎一郎)

 

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