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新型コロナウイルスへの向き合い方 ~インフルエンザ流行期を前に~

2020年 10月14日 15:26

人に感染する7番目のウイルス。新型コロナウイルス感染症とは?

ウイルスとは遺伝情報である核酸(DNAかRNA)がタンパク質で包まれた単純な構造から成る20〜30nm(1nm = 100万分の1mm)の物体で、生命の最小単位である細胞や細胞膜を持ちません。
つまりウイルスは生物とはいえないということになります。ウイルスは自身だけでは増殖できず、生物の細胞内に入り、自身の核酸を細胞内で複製させることで増殖し、細胞外に出てさらに他の
細胞に入り込み、増殖を繰り返します。
コロナウイルスは核酸としてRNAをもつRNAウイルスの一種です。ヒトに感染するコロナウイルスとしては4種類のかぜウイルスと、2002年中国・広東省から発生した重症急性呼吸器症候群(SARS)のSARS-CoVウイルスおよび2012年にアラビア半島から発生した中東呼吸器症候群(MERS)のMERS-CoVウイルスの計6種類が知られていました。
2019年12月、中国・湖北省武漢市で発生したとされる新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因ウイルスが人に感染する7番目のコロナウイルスとしてSARS-CoV-2ウイルスと命名されました。

新型コロナウイルスの感染は主にウイルス保有者の咳やくしゃみにより生じる、しぶき(飛沫)を他者が鼻や口から吸い込むことによる飛沫感染で広がります。さらに会話などで生じるより細かい飛沫(マイクロ飛沫)からの感染や、ウイルスを含んだ飛沫が付着した感染者の体や付着した物を触った手で自身の鼻、口、眼などの粘膜を触ることにより感染する接触感染の可能性もあります。血液、尿、便からの感染はまれのようです。

ウイルスの潜伏期は1〜14日で、感染してから5日程度で発症することが多いとされます。また感染可能期間は発症前2日から発症後7〜14日間までと長く、発症早期から感染性が高く、発症前または無症状の感染者でも他者に感染させる可能性があるところがこのウイルスの厄介なところです。感染力は一人の感染者から二〜三人程度に感染させるといわれています。


主な症状は、発熱(いったん解熱後、再発熱する場合もあり)、咳、筋肉痛、倦怠感、呼吸困難などが多く、頭痛、喀痰、血痰、下痢、味覚・嗅覚障害などもみられます。一般的に呼吸困難を認める場合は肺炎を発症していると推測され、1週間以上続く発熱を経て呼吸困難や咳が生じた場合は重症化する可能性もあり、特に注意が必要です。

新型コロナウイルスの感染予防について

新型コロナウイルス感染症は主に高齢者で重症化が見られます。その他の重症化要因として、高血圧や心不全などの循環器疾患、糖尿病、慢性呼吸器疾患、がん、免疫不全状態、人工透析などが考えられ、喫煙歴のある患者では致死率が高いともいわれています。胎児への影響がありえるので妊婦の感染にも注意が必要です。

新型コロナウイルス感染症の重症化や死亡に至る病態としては、重症の肺炎とともに血管炎や血栓症が重要です。つまり新型コロナウイルスが血管炎を起こして血栓を誘発し、脳梗塞や心筋梗塞の原因となる可能性があるということです。また軽症患者が経過観察中に突然死を起こした事例があり、これにも血栓症関与の可能性が示唆されています。通常、若年者は重症化しにくいと考えられていますが、若年患者で脳梗塞を起こした事例の報告はあり、血栓症に関しては若年者でも注意が必要です。さらに小児の全身の血管に炎症を起こす川崎病という病気に似た病態が欧米の小児に見られたという報告もあります。

新型コロナウイルス感染症は有効な治療法、治療薬が確立していない現状では、高齢者から若年者、小児に至るまで全ての年代の人々について感染予防の必要があるといえます。
しかし残念ながら感染予防に有効なワクチンが開発、実用化されるのにはもう少し時間が必要なようです。それではどのように感染を予防すればよいのでしょうか。
日本感染症学会と日本環境感染学会は「第一波を乗り越えて、いま私たちに求められる理解と行動 」と題して、感染予防に関しては、①咳やくしゃみで発生する飛沫による感染や接触感染の予防とともに、唾液腺に感染し唾液に含まれたウイルスが、会話・発声により生じたマイクロ飛沫による感染を予防するためにマスクを装着すること、ライブハウス、キャバレー、スポーツジム、カラオケ、パーティーなど密接した中で大きな声を出すような状況を避けること、②密集、密接、密閉のいわゆる3密を避けること、③高齢者、特に持病のある高齢者が重症化しやすいこと、しかし感染を受けるリスクは高齢者でも若年者でも変わらないこと、よって感染した若年者が自覚しないままに重症化リスクがある高齢者に感染させてしまう危険があることなど注意を喚起しています。

新型コロナとインフルエンザが合併感染したら

新型コロナウイルスにはいまのところインフルエンザのような季節性は確認されていません。ではインフルエンザ流行期にはどう対応したらいいのでしょう。
日本感染症学会の提言「今冬のインフルエンザとCOVID-19に備えて」では、日本の2019-2020年シーズンのインフルエンザは、2020年に入ってから例年より患者数が大きく減少したと伝え、新型コロナ対策としての飛沫感染対策や手指衛生等の予防策が、インフルエンザについても有効であったのではと推測しています。
またこの提言によると、インフルエンザを合併した新型コロナウイルス感染症は、インフルエンザを合併してない場合と比べて重症度に差異はみられなかったという報告がある一方で、B型インフルエンザとの合併症例は重症化したという報告もあると伝えており、インフルエンザと新型コロナとの関係はまだよくわかっていないのが現状です。

ここで(表1)にインフルエンザと新型コロナウイルス感染症との相違を示します。これを見ると同じウイルスでも潜伏期間、無症状感染の割合、ウイルス排出のピークなど大きく違うことがわかりますが、これらを実際に区別することはかなり難しいです。
両者の感染が合併して重症化を来す可能性、両者の区別ができずに新型コロナ感染の確認が遅れてしまう可能性など考えると、両者をまとめて可能な限り予防することが大切ということになります。

インフルエンザワクチンの接種を

先に示した感染症関連学会の感染予防策や北九州市の5つの行動目標はインフルエンザにも十二分に有効なので、インフルエンザ流行期にも引き続きこれらの対策を徹底することがひとつ大事なことです。さらにインフルエンザの予防にはインフルエンザワクチンが有効ですので、秋以降、かかりつけの医師に相談してワクチン接種を受けられることをお勧めします。
感染予防対策にもかかわらず、晩秋から冬のインフルエンザ流行期に発熱を伴う症状が見られた時には、早めにかかりつけの医療機関や役所の電話相談窓口などに相談して、適当な医療機関を受診してください。

思いやりを持つことが大切です

先に引用した二つの感染症関連学会の声明文「第一波を乗り越えて-」は、新型コロナ感染症では無症状感染者が存在し、その広がりが同症の蔓延において重要としています。また新型コロナ感染症は誰もが感染する、または感染している、さらには感染を広げてしまう可能性があると述べています。
ウイルスは見えない形で巧妙に広がっていくものなので、いくら厳重厳格に対応していても感染してしまうことは十分ありえます。はからずも感染してしまった、または感染させてしまった人を責めたり差別したりすることは厳に慎むこと、自分が感染、発症することを恐れる前に、自分自身が家族に、友人に、職場の同僚に、その他全ての周りの人々にウイルスを広げないようにという思いやりの気持ちで行動することが大切だと思います。
不運にも新型コロナに感染、発症してしまった方々には、我々医療従事者が病気克服に向けて全力で取り組みますので、そこは心配しないでください。
もうひとつ、治療中の慢性疾患のある患者さんで「コロナに感染するのが怖い」と当院を含め、かかりつけ医への受診を控える方がたびたびいらっしゃいます。しかしご自身の病気をしっかり管理しないと、万一コロナウイルスに感染した時により悪い結果を招くことになりかねないと思います。
医療機関はしっかり感染対策をしていますし、医療従事者は新型コロナのことを念頭に、病気を持つ皆様が心身ともに安心して過ごせるように努めておりますので、安心してこれまでどおり、かかりつけの医療機関を受診していただくよう願います。
  

参考資料

  1. 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き・第2.2版. 2020年5月. 令和2年度厚生労働行政推進調査事業費補助金新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業 一類感染症等の患者発生時に備えた臨床的対応に関する研究 
  2. 医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド第3版. 2020年5月. ⼀般社団法⼈ ⽇本環境感染学会
  3. 第一波を乗り越えて、いま私たちに求められる理解と行動. 2020年6月. 一般社団法人日本感染症学会 舘田一博, 一般社団法人日本環境感染学会 吉田正樹
  4. わが国の呼吸器内科における併存呼吸器疾患別にみたCOVID-19の診療実態. 2020年7月. 一般社団法人日本呼吸器学会 アレルギー・免疫・炎症学術部会
  5. 一般社団法人日本感染症学会提言 今冬のインフルエンザとCOVID-19に備えて. 2020年8月.

 呼吸器内科部長 古森雅志(こもり まさし)
日本内科学会認定内科医・日本呼吸器学会専門医/指導医・日本アレルギー学会専門医・日本呼吸器内視鏡学会専門医/指導医・日本結核・非結核性抗酸菌症学会指導医

 

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