Feature | 特集
糖尿病だとなぜ、がんが増えるのか?
2022年 5月17日 14:37
意外とがんは身近な病気
NHKのまとめによると、新型コロナウイルスの国内感染者は270万人を超え、新型コロナで亡くなられた方は1万8815人に達しました(2月1日時点)。
この未知なる感染症は私達の生活をおびやかしています。感染により命を落とすのはとても怖いことですが、令和2年の人口動態統計(厚生労働省)によれば、死因の第1位はがんで、新型コロナ死亡数の20倍にあたる37万8356人もの方が1年間にがんで亡くなっています。
がんは死因の27.6%を占め、およそ4人に1人ががんで亡くなっています。生涯にがんになる確率は男女とも50%を超えており、意外にもがんは身近な病気なのです。
糖尿病患者さんはがんに注意!
近年、糖尿病とがんとの関連が明らかになりつつあります。日本糖尿病学会と日本癌学会の専門家は合同で委員会を設立し、関連について検討を行っています。その報告によれば、糖尿病患者さんは糖尿病がない人に比べ、約1.2倍がんになりやすいとのことです。
日本の研究報告では、糖尿病は男性においては、胃がん1.23倍、大腸がん1.36倍、肝臓がん2.24倍、膵臓がん1.85倍、腎臓がん1.92倍のリスク上昇(なりやすさ)と、女性においては、胃がん1.61倍、肝臓がん1.94倍のリスク上昇と関連がみられました。
さらに国内外の多くの報告をまとめたメタ解析の報告では、糖尿病は肝臓がん、膵臓がん、大腸がんに加え、乳がん1.20倍、子宮体がん(子宮内膜がん)2.10倍、膀胱がん1.24倍のリスク上昇とも関連がみられました。
また糖尿病患者さんが、がんになった場合、糖尿病がない人に比べ、生存に関する予後が悪いことも報告されています。
糖尿病だとなぜがんが増えるのか?
一般に、肥満者の多い2型糖尿病ではインスリンが効きにくいインスリン抵抗性が存在します。
血糖値が下がるのに膵臓から分泌されるインスリンが必要なのはご存知でしょうが、インスリン抵抗性があると、体は血液中のインスリン濃度を高めて血糖を下げようとします。
一方で、インスリンには血糖を下げる作用のほかに、細胞を増殖させる因子としての作用もあり、高インスリン血症ががんの発生や増殖に関連していると考えられています(図)。
また、高血糖による酸化ストレス(酸化反応による引き起こされる、生体にとって有害な作用のこと)が、糖尿病の細小血管合併症や大血管合併症を起こすことは知られています。酸化ストレスの増加は遺伝子の本体であるDNAにダメージを与えて、がんに関連する遺伝子の調節を狂わせる可能性が考えられています。
糖尿病が急に悪化したら要注意
■Aさん(60代)の場合
40歳の時に糖尿病がみつかり、近くの医院で内服加療を受けていました。6か月おきに定期的な血液検査を行っていましたが、急にHbA1cが9%に上昇しました。
数週間前から体重が2kgほど減っていましたが、食欲もあり、心当たりがあるとすればスイカを毎日食べていたことくらいでした。しかし、CT検査を行ったところ膵臓の一部が腫大しており、詳しく調べると膵尾部にがんがみつかりました。
Aさんのように急な血糖コントロールの悪化で注意したいのが膵臓がんです。膵臓がんは進行するまで症状が出にくいため、早期発見が難しいがんです。膵臓がんが発見された時点ですでに転移がみつかる場合も少なくありません。ちなみにAさんも発見された時の血液検査では高血糖を認める以外に検査値には異常がみられませんでした。自分は何も甘いものは食べていないのに急に血糖が悪くなったという方は、一度腹部のエコーやCT検査を受けることをお勧めします。
糖尿病の原因が膵臓がんであることも
■Bさん(80代)の場合
高血圧症でかかりつけ医を通院されていましたが、これまで糖尿病と言われたことはありませんでした。ある日、定期的な血液検査で血糖値390mg/dL、HbA1cが 10%であり、糖尿病がみつかりました。これまでの食生活には変わりなく、思い当たる原因もありません。そこで、腹部のCT検査を行ってみると、膵臓に腫瘍がみつかり、詳しく調べてみると膵臓がんでした。
Bさんのように、膵臓がんが糖尿病の原因だった方が時々おられます。米国の調査によれば新たに糖尿病と診断された人の1%に膵臓がんがみられるとのことです。その頻度は決して多くはありませんが、「単にお薬を飲んで血糖が下がったと喜んでいたら、実は膵臓がんだった」ではたまりません。そのため、私達は糖尿病で初めて紹介された方、特に50歳以上の方には初診時に腹部エコーやCTでがんのスクリーニング検査を行うようにしています。
がん検診を受けましょう
糖尿病の方は、定期的に血液検査を受けたり、画像検査を受けたりするため、がんが早期に見つかる場合があります。ただし、すべてのがんを主治医が早期に見つけられるかというと、残念ながら不可能です。がんを早期発見するために、糖尿病の方は定期的な通院とは別に、がん検診を受けましょう。
おわりに
糖尿病とがんに共通の危険因子として、加齢に加え、肥満、運動不足、喫煙、過剰飲酒などの生活習慣があります。糖尿病の治療として食事・運動療法に取り組み、肥満をなくすこと、禁煙や節酒に取り組むことはがんのリスクを減らすことにつながるかもしれません。
これまで糖尿病とがんについて話をさせていただきましたが、実は私も昨年、がんがみつかった
一人です。酒も飲まない、タバコも吸わない、肥満もなく、ましてや糖尿病でもない自分ががんになるとは思ってもみませんでした。
冒頭にも述べましたとおり、2人に1人はがんになる時代です。これを読まれた方が、がんは他人事とは思わず、何かいつもと違う異常を感じたら、早めに診察を受けるようになっていただけたら幸いです。
糖尿病センター長・糖尿病内科主任部長
中村宇大(なかむらうだい)