せいてつLab ~医療を知る 健康を守る~

コミュニティ

コラム「北九州のキラリ人からの1,000字」②

2022年 7月21日 15:41

ここでしか読めないコラム②
今回の筆者 外平友佳理(そとひらゆかり)氏

北九州市在住のキラリ輝く方々に寄稿していただきました。1,000文字の素敵な世界へようこそ。
■プロフィル
獣医師として到津の森公園(北九州市小倉北区)をはじめ動物園で20年勤務。その経験と実績を広く社会や地域に活かすため、2019年9月にフリーランスとして独立。現在は往診スタイルで、幅広い動物種に対応した訪問診療を行っています。その他にも環境保全活動・社会教育活動・地域支援活動なども精力的に行っています。

一番好きな動物は「人間」です

「動物が好きなんですね」。そう言われるたびに、違和感を覚えます。私にとって人間も同じ動物、霊長目の一種です。普段の会話で「人間のオス、メス」と言ってしまうのはまだマシで、幼いわが子の手を「前あし」と言った時は、さすがに自分に呆れました。ちなみに、一番好きな動物は人間です。

動物園からペットまで、さまざまな動物を診ていますが苦労ばかりです。両生類は皮膚から薬物が皮膚から急速に吸収されるので、イソジンはNG、猛禽(もうきん)類はビタミンB群の連続投与で死亡例があり、ヤギに固形物を与えるときは薄切りにしなければ、窒息死する危険があります。それぞれの特徴を知らなければ治療が裏目に出てしまいます。しかし、珍しい動物の数少ない症例では獣医師としての経験値はなかなか積めず、もどかしいばかりです。

忘れない。カバのポンチ

最も心に残っているのが、ちょうど20年前のカバのポンチのことです。西鉄から北九州市が引き継いで新たに到津の森公園が開園する2か月前でした。ポンチが体調を崩し、3トンの巨体が立てなくなりました。
横に倒れたままでは、内臓や四肢が体の重みで圧迫され、機能不全となります。飼育スタッフ全員で数時間かけてプールに移し、お湯を何度も運んで水温を上げました。はじめは浮いて、食欲もあったので投薬もできました。それができなくなると、溺れないように水を抜き、代わりに大量のワラを敷き、3㎝以上ある皮膚への注射は麻酔銃の空気圧で打ち込みました。倒れて2週間足らずでポンチは亡くなり、大きな動物の前に「なんて無力なんだろう」とがくぜんとしました。デッキブラシで背中を掻いてもらうのが好きだった穏やかなカバ。彼にもっと生きてほしかった。そして何よりも、40年間市民に愛されてきたポンチとの再会を楽しみにしている人たちに、申し訳ない気持ちでいっぱいでした。

どんな生き物にも心がある

動物園に長くいると「どんな生きものとも気持ちが通じ合える」ことに気づきました。餌だけが目当てではなく、市域する私たちが来ることを喜んでくれます。魚にも感情があること、仲間の死を悼む動物がすくなくないことなど、近年、ようやく生き物の心を解明する科学が進んできました。経験ではわかっていたことが、証明され始めたのです。ああ。生き物すべてがなんて魅力的なんだろう。
2019年、「どうぶつたちとくらそう」をモットーに、フリーランスの獣医師として活動を開始しました。この素晴らしい地球の未来のために、ますます励んでいきたいと思います。

広報誌「こんにちはせいてつ病院です」129号より
→ コチラからダウンロードできます。

「コミュニティ」最新記事