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恋は魔法の治療薬~ある患者さんの実話より~

2022年 12月23日 08:50

もうすぐクリスマスですね。
街には色鮮やかなイルミネーションが灯り、クリスマスを祝うムード一色になってきました。恋人と過ごすクリスマスほどロマンチックな夜はありません。
今回は、そんな恋が起こした奇跡ともいえる実話です。

偶然にみつかった糖尿病

A子さんは30代半ばのシングルマザー。尿意を我慢できずに失禁してしまうようになり、近くの医院で検査を受けたところ糖尿病がみつかり、当院に紹介されました。来院されたときの血糖値は285mg/dL、正常値よりもかなり高い値でした。糖尿病の血糖コントロール状況を示すHbA1c(ヘモグロビンA1c)は12%(正常はおよそ5.8%未満)であり、最近の血糖がかなり高かったことがわかりました。おそらく高血糖のために多尿となり、トイレに間に合わなかったことが考えられました。

A子さんは、20歳の頃の体重は48㎏でしたが、受診された際は68㎏になっていました。初めてお会いした時は新型コロナ感染症が蔓延していた時期であり、マスクのため表情はよくわかりませんでしたが、なんとなく自信がなさそうで、どことなく暗い印象でした。

シングルマザーの苦労

A子さんは以前、看護師として働いていましたが、数年前にある病気が原因で仕事を続けられなくなり、いまはスーパーでパートをしながら二人のお子さんを育てています。A子さんの糖尿病は、通常なら入院して行うほど悪いものでしたが、幼い子供を残して入院することができないため、外来でインスリン注射を始めることになりました。

元看護師ということもあり、インスリンを自分で注射するのはすぐにできました。その後、順調に血糖は下がっていったのですが、3か月を過ぎたころから彼女に少しずつ異変が現れたのです。

知られざる過去

A子さんは「糖尿病」であることに、とても落ち込んでいたのです。それが原因で不眠になり、体調が悪化していました。じつはA子さんは以前よりパニック障害を抱えていました。パニック障害とは不安障害に分類される精神障害です。看護師を辞めたのもそれが原因でした。外出するのも嫌になり、家にいることが多くなったからか、次第に体重が増え、治療開始前と比べて6㎏も増えてしまっていました。表情も暗く、外来では時折、涙ぐむこともありました。抑うつ気分の影響で彼女の血糖はまた少しずつ悪化していったのです。

奇跡の復活

治療開始から半年が過ぎたものの、A子さんの治療は思うように上手くいかなくなりました。治療薬を変えてみたものの、彼女の不安は消えません。早いうちに心療内科にも相談しないといけないかと考えていた矢先、ある日A子さんが晴れ晴れとした表情で来院されました。伺うと最近はよく眠れるようになったとのこと。診察時に「ん?なんか痩せた?」とたずねたら、体重を聞いてビックリ! ピーク時の74kgから65㎏に減っていたのです。血糖検査も行うと、HbA1cは6.5%に改善していました。これまでの経験から上手くいく確信を得た私は、注射薬を止めて、内服薬に変更しました。

魔法の薬の正体は?

それを境にA子さんの体調は良くなり、体重と血糖はみるみると下がっていきました。理由がわからず不思議に思っていると、半年ほどしたら県外に引っ越す予定だとのこと。なんと偶然に知り合った男性と恋におちて、将来結婚を考えていたのでした! お子さん達も母親の再婚に賛成してくれました。体重が50kg台に減った彼女は20代の体型に戻り、糖尿病の治療薬も要らないほど改善しました。元々チャーミングな女性だったのでしょう。若さと活気を取り戻したA子さんはとても眩しく見えました。そして、その年の夏に予定通り、転居されていったのでした。

恋するオンナは綺麗さ~♪ 

有名な歌の歌詞にもありますように、恋する女性はとても綺麗です。私もまさか、恋が糖尿病の特効薬になるとは知りませんでした。健やかでいるための秘訣は、実は意外と身近なところにあるのかもしれません。
(文:製鉄記念八幡病院糖尿病センター長 中村宇大)

 

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