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潰瘍性大腸炎・クローン病をご存知ですか?
2021年 8月16日 15:59
最も患者数が多い「難病」
炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease; IBD)とは一般的に「潰瘍性大腸炎」と「クローン病」のことを意味します。今のところ、どちらも原因がはっきりとわかっていませんが、遺伝的素因に食事や感染、腸内細菌などの環境因子が加わり、免疫異常をきたして発症すると考えられています。長期間の治療が必要な慢性の病気であるため、厚生労働省の「難病」に定められています。
以前はまれな病気とされていましたが、近年増加の一途をたどり、現在わが国には潰瘍性大腸炎は約22万人、クローン病は約5万人の患者さんがいると推測されます。患者数が急増した背景には、診断法や認知度が向上したことに加え、食事を含む生活習慣の西洋化の影響も大きいと考えられています。
潰瘍性大腸炎とクローン病、どこが違う?
■潰瘍性大腸炎
主な症状は下痢、血便、腹痛です。大腸内視鏡検査で診断されることが多く(写真1)、炎症の部位は大腸粘膜に限られ、直腸から始まり、連続的に口側へと広がっていきます。
発症年齢は10~50歳で多くなっていますが、高齢者に発症することもあります。男女比に差はありません。
病状が悪い時期(活動期)と落ち着いている時期(寛解期)を繰り返しますが、若年での発症例や長期経過例、病変範囲が広い症例は、大腸がんを発症するリスクが高まることが知られています。
■クローン病
米国のB.B.クローン医師らが1932年に初めて報告したことからクローン病と呼ばれています。口から肛門まで、どの消化管にも炎症が起こりうる病気で、各種内視鏡(写真2)、造影、CT・MRIなどの検査で総合的に診断されます。
腹痛、下痢、発熱、倦怠感、体重減少などの症状に加え、肛門病変(痔ろう)を伴うことが多いのが特徴です。
発症時期は10~20歳代が多く、2:1と男性に多くみられます。潰瘍性大腸炎と同様に、活動期と寛解期を繰り返します。合併症として狭窄(腸管が狭くなる)、穿孔(腸に穴が開く)、瘻孔(腸どうし、あるいは腸と他臓器・皮膚を貫く穴が開く)を伴うことがあります。
新薬が次々に開発
いずれの病気も薬による内科的治療が原則です。炎症抑制薬を基本に、免疫異常を抑えるステロイド、免疫調整薬、生物学的製剤を重症度や病変の範囲に応じて選択します。炎症にかかわる血液成分を除去する血球成分除去療法も有効です。クローン病では成分栄養剤を用いた栄養療法が有効であり、しかも副作用がほとんどないことがわかっています。
ただし、治療が功を奏し一旦寛解期に入っても、放っておくと再び炎症が生じることから、寛解期を維持するために治療を継続する必要があります。
私が医師になった約25年前は薬の種類も乏しく、患者さんは入退院を繰り返すことが多かったのですが、近年たくさんの新薬が開発され、通院でも十分に治療できるようになりました。
ただし、重症の場合や薬が効かない場合、がんを発症した場合には入院、時には手術が必要となることがあります。
最後に
若い方に発症しやすことから、患者さんは治療中に進学・転居・結婚・出産などさまざまなイベントに遭遇します。われわれ炎症性腸疾患の専門医は数こそは少ないですが、福岡県内にとどまらず、九州、全国的に交流があることが特徴的です。
患者さんの人生の節目で診療が途切れることがないよう、ネットワークを駆使して患者さんを支えていきます。
製鉄記念八幡病院 消化器内科部長・内視鏡センター長 中村滋郎