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アルツハイマー型認知症に新薬「レカネマブ」登場。その効果と注意点について

2024年 5月10日 15:39

認知症で一番多い「アルツハイマー型認知症」とは

日本における65歳以上の認知症の人は2025年、約730万人に達すると予測され(平成29年度高齢者白書)、これは高齢者5人に1人という計算になります。主な発症リスクが加齢であるため、だれでも認知症にかかる可能性があり、他人ごとではありません。

さて、認知症には種類があることをご存じですか? それぞれ初期症状や原因が異なりますが、
今回は60~70%近くを占める「アルツハイマー型認知症」を取り上げます。

アルツハイマー型認知症はまず、記憶力や注意力の低下といった「もの忘れ」が出現します。
もの忘れはあまり日常生活に支障はありませんが、進行すると日付や住所、電話番号などがわからなくなったり、金銭管理や家事ができなくなるなど、他人のサポートが必要になってきます。

発症の原因は

脳内に「アミロイドβ(以下Aβ)」という異常なタンパク質が蓄積され、脳の神経細胞を徐々に破壊し、死滅させるためです。その結果、脳の海馬が萎縮し、認知機能に異常をきたします。
さらに重要なことは、Aβは認知症の症状が出る10~20年も前から、徐々に脳内に蓄積し始めているということです.。

2023年12月、認知症の新薬が登場

残念ながら、認知症を根本的に治す薬はいまだ開発されていません。1999年、世界初のアルツハイマー治療薬「アリセプト」が登場し、現在4つの治療薬が使われていますが、どれも劇的に記憶障害を改善したり、症状の進行を止める働きはなく、飲んでいても進行してしまいます。

アルツハイマー型認知症の治療薬は長く登場しませんでしたが、2023年12月、新薬「レカネマブ(商品名レケンビ)」が発売され、注目を集めています。この点滴治療薬は現在、限られた施設でのみ実施され、当院は実施施設の一つです。

しかし、希望されるすべての方に適応できる薬ではありません。

投与できる人の条件は

レカネマブは脳内からAβを取り除く作用があり、病気の進行を遅らせ、認知機能の低下を緩やかにすることが期待されています。ただし、この薬を投与できる人は「MCI」とよばれる軽度認知障害の人、そしてアルツハイマー型認知症の軽度の人にだけ適応となります。
つまり、それほど認知症状が進んでおらず、Aβが破壊していない神経細胞がたくさん残っているときから投与しなければ、効果はないのです。

検査の方法は

初めて投与する際は、次のような検査を行います(検査は1日で終了します)。

①認知機能検査の実施

②髄液検査(当院で検査可能)またはPET検査(当院以外の施設で検査)のどちらかを行い、脳内に蓄積しているアミロイドβを定量化して確認します。

③MRI検査で脳の出血や浮腫などがないか、検査します。

検査の結果で、治療適応かどうかを医師が決定します。結果によって、治療ができないこともあります。

実際の投薬方法

2週間に1回、約1時間かけて点滴静注を行います。当院では初回投与時のみ、1泊入院をお勧めします。さらに、4回目の投与後や定期的にMRI撮影を行い、副作用の有無を確認したり、薬の効果や病気の進み具合などを総合的に判断しながら、治療の継続や中止を決定します。

細かな取り決めのもと、投与期間は最大で原則18ヶ月、回数は36回になります。

気になる症状は早めにご相談を

レカネマブを投与できる人はある程度限られますが、認知症は「早期発見、早期治療」で症状の悪化を緩やかにできます。この新薬登場で早めの受診を意識する人が増加することを期待しています。気になる症状がある人やそのご家族は、早めに「もの忘れ外来」の受診を心がけましょう。

製鉄記念八幡病院 副院長/脳卒中・神経センター長 荒川修治
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