整形外科

特色

人工股関節置換術

当院は、骨折などの救急外傷はもちろんのこと、脊椎疾患、股関節・膝関節といった下肢の変形性関節症、関節リウマチ診療を行っています。
脊椎疾患は、頚椎から腰椎までの範囲を診察し、症状に応じて内科医や脳神経外科医と協力して治療に当たったり、手術を行ったりしています。手術では可能な限り負担の少ない手術を提供するために顕微鏡や、360X線透視可能な手術台も使用しています。腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症の患者さんには、神経根ブロックや椎間板内酵素注入療法による治療も提供しています。
変形性関節症は、人工関節置換術を中心に治療を行い、若年者には矯正骨切り手術も行っています。人工股関節手術では、2019年度より前側方アプローチにて手術を行い股関節脱臼がしにくくなっており、ほとんどの日常生活動作に制限が不要となっております。人工膝関節手術では変形が高度でない症例では大腿四頭筋を温存する手術方法(Subvastusアプローチ)で手術を行い、従来の手術方法と比較し術後の疼痛の軽減や筋力低下が少なくなっております。人工股関節、人工膝関節手術はともに従来と比べて術後のリハビリが順調で、入院期間も短くなっております。
関節リウマチは、生物学的製剤を始め薬物治療だけでなく、関節の変形によって起きる痛みや神経障害に対する治療も行っています。
各医師が専門性を生かした診療を行いながら、日々最新の医療を学び、よりよい治療法を提供できるように努力しています。

脊椎疾患について

腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)

原因
腰部脊柱管狭窄症は、脊椎の加齢変化によって脊柱管が狭まり、神経が圧迫されることで発症します。加齢変化とは椎間板の変性、靭帯の肥厚(ひこう)、骨棘(こつきょく)の形成をいいます。これらが組み合わさることで神経の通り道が狭くなり、痛みやしびれなどの症状が現れます。特に、長年の姿勢の悪さや過度な負担が腰にかかる職業の方は発症リスクが高いとされています。また、先天的に脊柱管が狭い場合も、加齢に伴い症状が現れることがあります。
症状
代表的な症状として間欠性跛行(かんけつせいはこう)が挙げられます。これは歩いていると足のしびれや痛みが強くなり、休憩すると軽減するという特徴的な症状です。また、腰痛や足の違和感・感覚異常(ムズムズするとか、ずっと靴下をはいているようだと表現されます)が見られ、特に背筋を伸ばした姿勢で症状が悪化し、前かがみになると改善する傾向があります。進行すると、日常生活に支障をきたすことがあり、歩行距離が短くなるほか、足の筋力低下を伴うこともあります。
治療
保存療法としては、薬物療法・リハビリテーション・神経ブロックなどが挙げられます。特にリハビリでは、腰周りの筋肉を鍛え、姿勢の改善を図ることで症状緩和を目指します。症状が進行し、歩行困難や筋力低下、排尿障害(出しにくい、漏れるなど)が出現する場合には、脊柱管を広げる除圧術や脊椎固定術といった手術が検討されます。最近の研究では、運動療法とストレッチを組み合わせることで、より症状を改善したり、術後の回復を促進したりする可能性が示されています。

頚椎症性脊髄症(けいついしょうせいせきずいしょう)

原因
頚椎症性脊髄症は、腰部脊柱管狭窄症のような状態が、頚椎に起きて脊髄が圧迫されることで発症します。特に中高年に多く、長年の姿勢不良や頚部への負担が積み重なることで症状が進行します。また、遺伝的な要因や、過去の外傷による影響で頚椎のアライメントが変化し、発症リスクが高くなることもあります。
症状
特徴的な症状は、手足のしびれや筋力低下です。細かい動作が難しくなり、ボタンを留める動作や箸の使用が困難になることもあります。また、動作のぎこちなさや歩行障害が進行し、転倒しやすくなるケースも少なくありません。さらに重症化すると排尿障害が現れ、日常生活に深刻な影響を与えることがあります。
治療
軽度の場合は薬物療法やリハビリテーションで症状の緩和を図ります。神経の炎症を抑える薬や神経障害性疼痛治療薬、ビタミンB群の補助が有効といわれていますが、病気を止める手段はありません。進行した場合は、頚椎椎弓形成術や前方固定術といった外科的治療が行われます。手術をしても手足のしびれが残ることが多く、また時間が経過するとまた悪くなることがあり、手術後の薬物療法や運動療法が、症状の改善に寄与することが報告されています。

骨粗鬆症性圧迫骨折

原因
骨粗鬆症性圧迫骨折は、骨密度が低下しもろくなった脊椎が、軽微な外力によって壊れることで発症します。加齢とともに骨の強度が低下し、特に閉経後の女性に多くみられます。転倒やくしゃみ、椅子からの立ち上がり動作など、些細な動作でも骨折が生じることがあり、生活習慣や栄養状態が発症リスクに影響を及ぼします。
症状
初期症状としては腰や背中の痛みです。違和感や鈍痛だけのこともあります。痛みは徐々に増し、骨折の進行とともに背中が丸くなる(円背)や身長の低下が見られることがあります。複数の圧迫骨折を経験すると、姿勢が崩れ、歩行機能にも影響を及ぼす場合があり、まれに神経障害を伴い、下肢のしびれや排尿障害が生じることもあります。
治療
基本的な治療としては、保存療法(コルセット・薬物療法)が用いられます。コルセットで脊椎を安定化させることで痛みを軽減し、骨密度を改善する薬物療法を併用することが一般的です。1週間ほどベッド上で安静に過ごし、コルセットを着けて徐々に起こしていきます。骨密度を改善させる薬は、患者さんの年齢、骨の状態などを考慮して使用します。これらの治療をしても痛みが軽くならない場合(1ヶ月以内を目安)や、腰曲がりが進行した場合、神経障害が出てきた場合には、経皮的椎体形成術や脊椎固定術などの手術が検討されます。

股関節疾患について

股関節は、骨盤の「受け皿」である寛骨臼(かんこつきゅう)と、大腿骨側の大腿骨頭からできています。寛骨臼のまわりには「股関節唇(こかんせつしん)」という組織があり、大腿骨頭を包み込むように支え、衝撃を和らげるクッションのような役割を果たしています。
両足で立っているとき、片方の股関節は体重の約30%がかかり、片足で立つときには、体重の3~4倍もの負担が股関節にかかります。股関節の構造に異常が生じると、痛みや歩行障害といった症状が現れることがあります。
小児期には「先天性股関節脱臼」や「ペルテス病」などの病気があり、成人では「大腿骨頭壊死(だいたいこっとうえし)」「寛骨臼形成不全」「変形性股関節症」「急速破壊型股関節症」「股関節唇損傷」「FAI(大腿骨寛骨臼インピンジメント)」など、さまざまな病気がみられます。

変形性股関節症

関節のクッションである軟骨がすり減ることで、骨と骨がこすれ合い、痛みや関節の変形が起こる病気です。進行すると歩行が難しくなることもあり、症状が強くなった場合には人工股関節全置換術という手術で、関節を人工のものに置き換える治療を行います。
骨盤側の臼蓋(きゅうがい)、大腿骨側の大腿骨頭のそれぞれの関節軟骨が変性し、摩耗、関節破壊が生じます。その結果、股関節痛が強くなり、歩行障害を認める場合には「人工股関節全置換術」の手術が必要となります。

寛骨臼形成不全(かんこつきゅうけいせいふぜん)

もともと寛骨臼形成不全がある、20代~30代までの若い方に見られることがあります。変形性股関節症を認めない場合には「寛骨臼回転骨切り術」で手術治療を行います。
加齢が進み、変形性股関節症を認める場合には「人工股関節置換術」を行います。
寛骨臼形成不全ではCupを内方化させて設置し、高位脱臼をみとめる場合には上方設置での人工股関節置換を行うことがあります。また、先天性股関節脱臼に伴う臀筋内脱臼症例の場合は大腿骨短縮骨切り併用での人工股関節置換術を行うこともあります。

大腿骨頭壊死症(だいたいこっとうえししょう)

外傷、潜函病など壊死の原因が明らかな症候性大腿骨頭壊死と、明らかな原因のない特発性大腿骨頭壊死症に分類されます。
壊死の範囲が限られていて、軟骨の変性を認めない患者さんには「大腿骨頭回転骨切り術」や「大腿骨内反骨切り術」等の骨切り手術で治療を行います。
中高年の方で軟骨が変性し、関節症性変化を認める場合には、「人工股関節全置換術」で手術を行います。

急速破壊型股関節症

高齢者に多い股関節症の1つで、短期間(多くは1年以内)に急速に関節裂隙の狭小化、関節破壊が進行する疾患です。原因は不明です。股関節痛があり、歩行困難となります。治療は人工股関節全置換術を行います。

膝関節疾患について

膝の関節は大きく骨、軟骨、靭帯、半月板で構成されています。比較的痛みを感じやすい関節といわれており、いずれの損傷をきたしても、日常生活に支障のでる症状を引き起こす可能性があります。
代表的な疾患としては軟骨がすり減る「変形性膝関節症」、骨の障害である「大腿骨内顆骨(だいたいこつないかこつ)壊死症」や「各種靭帯損傷」、「半月板損傷」などがあります。また、関節リウマチを代表とする自己免疫疾患では関節症を続発することがあります。
特に変形性膝関節症に関しては、軟骨がすり減って痛みを感じている人が全国で推定1,000万人程度はいるといわれ、整形外科疾患では腰痛に次いで2番目に多い数となっています。男性は50歳代から女性は40歳代から増加していき、女性の方が3~4倍程多いといわれています。
当院では膝の関節注射やリハビリを行っても効果の乏しくなった変形性膝関節症の人工関節置換術を中心とした手術療法を行っています。
変形の強い方には「人工膝関節全置換術」を行うことが多く、変形が軽度で条件を満たす場合には「人工膝関節単顆(たんか)置換術」を選択する場合もあります。

人工膝関節全置換術

膝関節を構成する骨全体の表面を人工関節に置き換える手術です。変形性膝関節症、関節リウマチ、骨壊死症いずれにも対応可能な手技であり、O脚などのアライメントも矯正することができます。当院では可能な症例には大腿四頭筋の筋力をできるだけ温存する手術方法(Subvastusアプローチ)を取り入れて早期回復、早期退院を目指しています。

人工膝関節単顆置換術

膝関節のうち、主に内側の軟骨が損傷した部分のみを人工関節に置き換える手術です。靭帯や手術をしていない部位の軟骨は自分のものが残せますので、自然に近い動きが可能です。また、入院期間に関しても全置換術と比較すると短くてすみます。

骨折について

高齢者の骨折で多いものは①大腿骨近位部(股関節の付け根)骨折、②上腕骨近位部(肩の骨折)・橈骨遠位端(手首)骨折、③脊椎(背骨)圧迫骨折が挙げられます。これら3つの骨折の共通点は、転倒によって起こることです。

大腿骨近位部(股関節の付け根)骨折

股関節の付け根をひねるような動作や、こけたりして倒れ、股関節辺りに激痛を感じて動けなくなる骨折です。痛みのため立ち上がることすらできなくなり、身動きができない状態になります。自力で歩くことが困難となり、救急車を要請することも多くなります。病院での検査で骨折があれば、手術を検討しなければなりません。手術の方法は骨折の仕方によって異なりますが、人工関節手術または金属で骨を支える骨接合術を行います。基本的には手術翌日から離床が可能で、患者さんの生活レベルを極力低下させないことを目標にしています。手術を受けなくても、骨癒合が期待できるならば、手術をしなくても良いですが、専門医の診断を受けることをお勧めします。

上腕骨近位部(肩)骨折・橈骨遠位端(とうこつえんいたん)(手首)骨折

転倒した際に、手をつき手首や肩を骨折します。股関節と違って、腕の骨折は自分で歩けるため外来を受診される方が多いです。しかし、骨折のズレが大きいと、箸を使ったり服を着たりする日常の動作が困難になります。そのため、検査を行い、骨折の有無とズレの大きさを見定め、治療方針を決定します。

脊椎(背骨)圧迫骨折

転倒での受傷も多いですが、いつのまにか骨折していたという状態が多く、「いつのまにか骨折」とも言われます。急に背中や腰に痛みが出現し、気が付けば背骨を骨折していたという状況は、高齢の方に比較的多く見受けられます。痛みが強ければ、コルセットを使用して骨癒合を促す処置を行います。1個の背骨の骨折で、約4週間の入院が必要になることもあります。

これらの骨折の主な原因は、高齢になればなるほど、骨粗鬆症が進み全身の骨が骨折を起こし易い状態になることにあります。ホルモンのバランスも重要で、統計では男性よりも女性の方が骨折しやすいといわれています。手術を行い早期に社会復帰を目指す方法もありますが、まずは常日頃からつまずくことなく、しっかりとした下半身や腰回りを鍛えることで、骨折の予防をしましょう。
当科では骨折の検査も行っています。

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実績(2024)

手術部位 内容 2024
脊椎(99) 頚椎 椎弓形成術 15
後側方椎体固定術 2
前方椎体固定術 1
胸椎 椎弓切除術 2
後側方椎体固定術 6
椎体形成術 5
腰椎 椎弓切除術 25
後方椎体間固定術 26
前後方合併手術(OLIF) 3
椎間板ヘルニア摘出術 9
酵素注入療法 2
その他 3
肩関節(4)
*鎖骨・肩甲骨を含む
骨接合術 3
腱板修復 0
脱臼整復 1
その他 0
上腕骨(10) 骨接合術(Nail) 6
骨接合術(Plate) 1
その他 3
肘関節(10) 骨接合術 6
尺骨神経除圧術 3
関節形成術 0
靱帯再建 0
脱臼整復 0
人工肘関節置換術 0
その他 1
前腕骨(0) 骨接合術 0
その他 0
手関節(64) 骨接合術 42
関節形成術 1
手根管開放術 8
関節固定術 0
その他 13
手部・手指(17) 骨接合術 8
関節固定術 0
腱縫合・再建術 0
腱鞘切開術 9
その他 0
軟部腫瘍(4) 良性 3
悪性 1
股関節・骨盤(171) 大腿骨近位部骨折(117) 人工骨頭置換術 65
骨接合術(51)
ショートフェモラルネイル 43
ロングフェモラルネイル 8
CHS 0
頸部骨折骨接合術 1
骨盤骨折骨接合術 0
人工股関節全置換術 53
人工股関節再置換術 0
骨盤骨切り術 0
大腿骨骨切り術 0
人工関節脱臼整復術 1
その他 0
大腿骨(9) 骨接合術 Nail 1
骨接合術 Plate 2
インプラント周囲骨折 4
その他 2
膝関節(55) 関節鏡視下 滑膜切除術 0
半月板切除術 2
半月板縫合術 0
十字靱帯再建術 0
人工膝関節全置換術 31
人工膝関節再置換術 2
単顆人工膝関節置換術 1
高位脛骨骨切り術 0
骨接合術 6
その他 3
下腿(11) 骨接合術 6
その他 5
足関節(24) 骨接合術 11
関節固定術 0
アキレス腱縫合術 4
創外固定術 3
その他 6
足部・足趾・踵(8) 骨接合術 5
切除関節形成術 1
その他 2
感染(10) 術後早期感染 2
術後遅発感染 8
その他(1)

※症例の内容により重複があります。
※悪性腫瘍手術は生検を含む。